九州エリアを中心として、デザイナーとしてセラピストを支える一方で、「星空プランナー」としても活動している山本朝海さんのシェルパライフを紹介します。
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「Planning & Design Flow」の山本さんは、これまで8年にわたってデザインの分野で、セラピストの活動をサポートしています。
私はセラピストをサポートする存在を「シェルパ」と呼んでいて、本稿で紹介する山本さんも「シェルパ」のお一人です。
セラピスト一人ひとりがお腹の中に持っている“光”を輝かせる
山本さんが制作するのは、主にウェブサイトやパンフレット、リーフレット、ロゴなど。依頼主はセラピストを含む個人事業主や企業です。
セラピストの場合でいえば、新たにセラピストライフをスタートさせる方が活動のツールとして依頼することもあれば、すでに活動している方が次のステージに移行する際のリブランディングの一環として依頼をすることもあるとのことです。
彼女が制作にあたって大切にしているのが、依頼者からじっくりと話を聞いてコンセプトを引き出す過程です。
それはセラピストならではの感覚的な言葉から真意を汲み取り、見る人に伝わるようにコンセプトやデザインに落とし込むために必要な準備なのだと笑顔で話してくれました。
「見える形にデザインするのは、私の仕事のウェイトとしては3割くらい。あとの7割はコミュニケーションと傾聴して、まとめるという見えない部分です」(山本さん談)
山本さんはセラピストの傾向について、「鋭い感性の持ち主である一方で、言葉として表現する事に苦手意識を持っている方が多い印象」と感じているそうです。
そして、彼女自身が行っていることを、コミュニケーションとデザインを通じて「セラピストがお腹の中に持っている“光”。その1つひとつの輝きを、人により伝わるようにお手伝いするようなもの」と表現してくれました。
そうした過程を経て作られた制作物を見て、「私が思っていることを、こんなにも表現してくれるなんて」と依頼したセラピストから喜ばれるのだそうです。
自分が表現したかったことがフレーズやデザインによって、目に見える形になったことは、セラピストにとって自信につながるのでしょう。
それは、自分の歩む道に掛かった霧が晴れたかのような気分なのだろうと思います。
人の感情を過敏に受け取り、生きづらさを抱えながらも
山本さんがデザイナーとしてセラピストをサポートする「シェルパ」として活動するようになるまでの歩みについて聞きました。
デザイナーといえば、子どもの頃から美術的なセンスに恵まれた明るいイメージがありますが、山本さんはそうしたタイプではなかったそうです。
むしろ、人の感情を過敏に受け取り、人が考えていることを想像して恐れを抱いてしまう性格で、それ故に集団生活に馴染めずに生きづらさを感じている「暗い子どもだった」と山本さんは言います。
そうした性質であったこともあり、山本さんは「人間とは? 人生とは?」というような、哲学的な問いを常に持っていたようです。
そのため、大学で専攻したのも哲学や文化人類学などを扱う人文学部でした。
ただ、大学4年生になる頃に、就職のためにとウェブデザインを学び、卒業後にご縁のあったデザイン会社に入ります。
しかし、「デザイン力という意味では、基本的に素養がなくて、壁にぶち当たることが多かった」と山本さんは言います。
何度も挫折しそうになり、そのたびにデザイン会社の社長に励まされ、そのお陰で続けることができたと彼女は振り返ってくれました。
そうして10年もの間、その会社で経験値を積み、クライアントだけでなく、イラストレーター、ライター、コーディネーターなど様々な方と関わりを持つことになっていったのです。
これからも人の歩む道がスムーズに流れるサポートを
山本さんに転機が訪れたのは、2011年の東日本大震災。
「私は本当にやりたいことをやっているのだろうか?」「もっと喜びを感じながら生きるにはどうすればいいか」と考えたそうです。
デザイン会社を退職した山本さんは、セラピストとして生きる方法を模索しました。
実はデザイン会社に勤めていた頃に、毎週金曜日の仕事帰りにアーユルヴェーダを受けることを楽しみにしていて、「素敵な仕事だなと思っていた」そうです。
また、アーユルヴェーダのセラピストさんから紹介されて、カラーセラピーを学んだこともあったとのこと。
山本さんは、整体やアロマテラピー、ボディやフェイシャルへのオイルトリートメントなどの基本的な手技を学べる学校に通い、その後バリニーズセラピーを現地に学びに行ったそうです。
「もともと私は、“人間とは”みたいな哲学的な問答に興味がありました。セラピストは、“どうして人は病んでいくのか”、“どうして人は癒やされるのか”に取り組み、目に見えないエネルギーも整える。また、アーユルヴェーダもそうですが、古代の知恵につながっているところにも興味があり、勉強は面白かったです」(山本さん談)
卒業後、レンタルサロンや知り合いのサロンを借りるなどして、山本さんはセラピストとしての活動を徐々に開始しました。
その頃に、以前通っていたアーユルヴェーダ・サロンのオーナーから、リーフレット制作の依頼を受けます。
そこで、ずっとしてきた仕事の延長のつもりで依頼を引き受けたところ、出来上がった制作物がオーナーさんにとても喜ばれ、「私が人に貢献できる道なのかもしれない」と山本さんは思ったそうです。
体力的な理由などもあり彼女はセラピストとしての道から、「お客様の言葉にできない感覚をデザインで表現することで喜ばれ、人を輝かせられる」フリーデザイナーとしての道を歩み始めます。
現在の屋号の「Flow」は、セラピスト活動中のセラピストネームであり、また「自分の能力で人の歩む道がスムーズに流れるサポートをしたい」という願いが込められています。
「これからもお客様一人ひとりの光に寄り添って、分かりやすく制作物で表現していきたい」と山本さんは笑顔で語ってくれました。
校長からのメッセージ
現在、山本さんのもとにセラピストから依頼が来るのは、1.2月に数件。価格としては、紙媒体なら30,000〜60,000円ほど、ウェブサイトなら200,000円〜とのこと。
セラピストにとって、自分の魅力を引き出してくれたり、表現力を補ってくれるような、山本さんのような存在は貴重でしょう。
デザイナーと一言で言っても、働き方も得意分野も多様で、限られたスペースにたくさんの情報や写真を整理整頓するのが得意な方もいれば、無から有を作り出すようなクリエイター色の強い方もいます。
山本さんの場合、インタビューから推測するに、依頼主が自分では表現しきれていない魅力や、整理できてないメッセージを、傾聴を通していったん彼女の内に取り込み、制作物の中に落とし込んでいくというスタイルであるようです。
とくに、セラピストという一般的な評価基準が曖昧で、世間的なフレームに収まらない人々に向き合い、彼ら・彼女らの代弁者として制作物としてデザインすることは、誰にでもできるようなものではないでしょう。
幼少期に生きづらさを感じるほどの感受性は、デザイナーとセラピスト、セラピーの受け手という立場を経験することによって他者への共感性へと昇華し、壁にぶつかりながら得たデザインの経験値は、曖昧模糊としたセラピストの世界観を表現する力になっていったのではないでしょうか。
さて、山本さんは「セラピストのお腹の中にある“光”」と表現してくれましたが、きっとそれはセラピストの個性や魅力、情熱、活動エネルギーなど、それらの総体としての表現であるように思いました。
その光は、セラピスト自身を輝かせる光であると同時に、誰かを照らすための光。そして、セラピストの光は、お客様が光り輝けない原因を探して、一緒にそれを取り除くための光でもあります。
ならば、セラピストの光を、届けたい人に届くようにすることがデザインの力と言えるのではないでしょうか。
もちろん、自分を表現するツール(ウェブサイトやリーフレットなど)があることは、セラピストにとっても心強く、勇気づけられることでしょう。
それもやはりデザインの力といえます。
「セラピストさんそれぞれにとって、一番の理解者になりたい」と山本さんは笑顔で語ってくれました。
そんな彼女だからこそ生み出せるデザインがあり、そこに宿る力がセラピストを後押しするのだと思います。
きっと、その力を求めて、これからも多くのセラピストからの依頼が、山本さんのもとに来るのだろうと思います。
Planning & Design FLOW