九州エリアを中心として、デザイナーとしてセラピストを支える一方で、「星空プランナー」として活動している山本朝海さんのシェルパライフを紹介します。
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フリーデザイナーとしてセラピストをサポートする山本さんは、「星のソムリエ®」として「星空プランニング」という活動を、これまで6年にわたって行っています。
新しい時代に生きる人々と宇宙をつなぐ橋渡し
「星のソムリエ®」とは、星空案内人資格制度によって認定される、星空のおもしろさを伝える人の愛称です。
天文学や星座探し、天体望遠鏡による観察法、星座物語など、星空に関する幅広い知識と技能を習得しています。
山本さんはこの資格を持っていて、自ら「星空プランナー」として星空をテーマにした様々なイベントやツアーを企画・運営しています。
これまでも様々な企業や団体とともに星に思いを馳せるイベントを開催してきており、結婚式場やキャンプ場と協力したり、保育園児とその保護者を対象としたイベントもしてきたそうです。
こうした活動のテーマは、「新しい時代に生きる人々と宇宙をつなぐ橋渡し」。
忙しい現代生活の中で、日常を飛び越え、視野が広がる瞬間に出会うことで、世界や自分の可能性と豊かさに気づいてほしいという、山本さんの願いが込められています。
インタビューで「星を見るのが好きなんですか?」と私が聞いたところ、「星というよりも、宇宙の理(ことわり)を探求するのが好きなんですね」と山本さんは笑顔で答えてくれました。
解放された自由な生き方をしてもよいのだと
彼女がその思いを強くしたのは、デザイン事務所に勤めているときに、太陽系全体を俯瞰するカレンダーを制作している方と知り合ったことがきっかけだったそうです。
その際に、惑星の形などのデザイン的な面白さだけでなく、今までとは違った視点を得たといいます。
「思い返せば子どもの頃、星座にまつわる神話が好きだった覚えがあります。大人になってから、デザイナーとして宇宙について改めて考えたときに、“もしかすると、私たちは思っているよりも遥かに荒唐無稽で面白い世界に住んでいるじゃないか”という視点が生まれたんです」(山本さん談)
それ以来、山本さんの宇宙への好奇心は強くなり、ついには「星のソムリエ」の資格を得るまでになります。
山本さんは、現在の、とくに若い世代の人々が星空を見上げることの意義について、
「この世界が面白いということに気づくきっかけになればいいですね。それが、人の視野や可能性を広げることにもなると思うからです。大人が作った枠組みで自分の世界を狭めるのではなくて、そこから解放された自由な生き方をしてもよいのだと感じられる、わくわくできる場所を作ることはすごく大事なことだと思うんです」と笑顔で教えてくれました。
彼女の言うように、既存の枠組みにとらわれて自分を苦しめている人は、現在の日本にはたくさんいるように思えます。
ここで言う枠組みとは、世界への認識とも言い換えられます。
「世界をどう認識しているか」は全人類で共通のように思いがちですが、その実、1人ひとりが違った世界を感じているともいえます。
例えば、大人になってしまえば「学校」とは社会の中の一部に過ぎませんが、子どもの頃は世界の大半を占めるものだったはずです。
さらに、大人が知っている日本社会も、グローバルな視野を持っている人にとっては、地球のごく一部の狭い範囲に過ぎません。
もっと言えば、地球という惑星も太陽系の中の1つに過ぎず、太陽系も銀河レベルではごくごく狭い範囲でしかないわけです。
つまり、認識しだいで世界は広がったり、狭くなったりするということ。
だからこそ、ごく狭い「世界」の中で生きづらさを感じているのなら、「世界」を広げてしまえばいい。その方法の1つとして、山本さんは「星に思いを馳せる」という体験を勧めているのだろうと思います。
「人間性を回復させる」場としてのセラピー
さて、山本さんの星空プランナーという活動について話を聞く中で、星空プランナーとセラピストが不思議に重なり合う点についての話題にもなりました。
「コンピューターのペースで働くことで、人は機能不全を起こすのではないかと思うことがあります。だから、セラピストのもとに行くのは、大なり小なり、“人間性を回復するため”という意味があるのではないでしょうか。人間性を回復するという仕事が、ジャンルを問わず必要だと思います」(山本さん談)
社会が効率を求め続けてきたことで、自分がいったい誰のペースで働いているのかが分からなくなっている。そんな感覚に共感できる人は少なくないはず。
そしてそれが、「働きたいから自ら働く」という自由ではなくて、「誰かに働かされている」という隷属的な感覚に結びついているのかもしれません。
隷属的に働くためには体も心も鈍くしていなければ耐えられず、視野も狭くなっていくでしょう。それは「人間性」を取り崩して生活しているとも言えます。
そんな生き方を続けていけば、当然、疲労もストレスも溜まっていくでしょうから、心身に不調をきたしてしまうこともあるはずです。
ならば、たしかにセラピーが提供されるサロンは、「人間性を回復させる」場とでもいえるのではないか?
セラピストは目の前のお客様に向き合い、お客様の心と体が求めているペースを感じ取ってくれますし、施術を通して鈍くなった感覚に刺激を与えてくれるからです。
一方で、山本さんが星空プランナーとして提供するのは、星空を見上げ、星に思いを馳せるという体験です。
それが、例えばスマホばかり見ている人や、自分の横ばかり見て世界を平面的に捉えている人にとっては、非日常の世界の入り口になるわけです。
星を見上げることで世界を立体的に捉えなおし、宇宙の広さを感じ、自分がその中で生きる1人の人間なのだと気づくことが、「人間性の回復」につながっている。そのような信念を持っているように感じました。
山本さんはこれからも、この世界を遊ぶような、生きていることの喜びを感じられる場を作り出していきたいと語ってくれました。
また、大人の作った枠の中で悩んでいる若者たちが、山本さんの活動を見て「こんな大人もいるんだ」と思ってもらえるならば、それも彼ら彼女らの世界を狭めている枠を外すことになり、また勇気づけることにもなるのではないかと考えているそうです。
インタビューの中で、新しく考えている企画について、山本さんは子どものような笑顔で語ってくれました。
きっと彼女の企画に参加すれば、子どもたちは宇宙に夢中になり、大人たちも子どものような笑顔になる。山本さんの笑顔から、そんな様子を思い浮かべました。
校長からのメッセージ
今回のインタビューでは、山本さんの「星空プランナー」としての活動について聞くことができました。
「星空プランナー」とは、イベントプランナーやガイドであるとともに、星空というテーマを通して、人間性を回復させ、次世代の心を育てていく活動でもあるのです。
こうした活動は、本文でも述べたように、セラピストが行うセッションとよく似ています。
山本さんは肩書こそ「デザイナー」であり「星空プランナー」ですが、本質的にはセラピストなのではないかと思い、今回のインタビューにもつながりました。
それは「セラピスト」という肩書きにこだわらずとも、セラピーはできるということでもあります。
「肩書」というものは、自分が何者であるかを端的に伝えるために、とても便利な「枠組み」です。
しかし、その肩書きにとらわれたり、引け目を感じて心が苦しくなることもあるという、とても厄介なものでもあります。
「セラピストをしている方には、セラピストとして一本立ちできない苦悩を抱えている方もいるかもしれません。でも、セラピストは、どこに行ってもセラピストの有り様で生きていける。そう前向きに捉えてもいいんじゃないかと思うんです」と彼女は、ご自分の経験も交えて、そう話してくれました。
2つの肩書きを持ち、セラピストとしてのマインドを持っている山本さん。彼女の生き方は、既存の枠組みでは形容しにくいスタイルです。
しかし、彼女自身はそれを肯定的に捉え、社会的な枠組みとの関係性を上手く保っている印象を受けました。
それは、幼少期からずっと社会の枠組みに苦しめらてきて、その苦しみから宇宙を感じたことで解放された経験を持つ、彼女ならではの境地のようなものなのでしょうか。
あるいは、現在の活動を通して、かつての自分に「大人の作った枠組みにとらわれる必要はないよ」と伝えているのかもしれません。
さて、山本さんの「星海舎」のウェブサイトを拝見すると、これまでのお仕事を見ることができます。
どのイベントも、子どもや若年層が参加しやすく、また企業や団体を巻き込んでいくようなプランニングをしていることがよくわかります。
参加者には、おそらくセラピーとは縁遠い人も多いでしょう。
ですが、参加者がそれと認識することなく、気負わず楽しく体験をしているうちに、実はセラピーを受けている。
セラピスト目線で見ると、彼女のイベントは、そんな1つの形にも見えます。
ならば、セラピストが「セラピスト」という肩書きを超えて活動する可能性も拓けるのかもしれない。
既存の枠を取り払うことで、これからの社会に求められる「新しいセラピスト像」が見えてくるのかもしれない。
そんなことを想像させられるインタビューでした。
星空プランニング 星海舎