福岡県北九州市にて、13年間にわたって自宅サロン「メゾン ド ボーテ」を営み、2020年から執筆活動を通して、セラピストへの支援活動(シェルパ)をしている、後藤みゆきさんのセラピストライフを紹介します。
後藤さんがサロンで提供しているのは、フェイシャルとリンパトリートメントを中心としたメニューです。
お客様は30〜60代の女性で、むくみ、くすみ、たるみ、ゆるみなどの、お肌のトラブルの改善や、冷えや倦怠感などの体質改善を求めて通っているそうです。
「冷たいところ、硬いところ、むくんだところ、詰まってるところ。そういったところをオールハンドでキャッチしながら、その方の状態に合わせて、圧も速度も変えています。一球入魂ならぬ“一体入魂”で向き合っています。同じお客様でも、前の来店時とは全然違ったりしますので、こちらが気付いて対応することを心掛けています」
「サロンにいらっしゃった時の顔と帰られる時の、顔の変化が見られるのが嬉しいですね。表情とか、目の開き方とか、目の輝きとか。声のトーンも上がるし、口数も多くなる。皆さんツヤツヤして帰られるんです。トリートメント中は皆さん、眠ってくださるので、その間に脳のストレスが取れていって、それがお顔に表れているんだと思います。“次もお願いします”って、次の予約を入れて帰っていただける時は、やっぱり一番嬉しい瞬間ですね」(後藤さん談)
現在は、限られたリピーターさんのみをお迎えする形で運営されていて、新規のお客様をお迎えしていないとのこと。
というのも、サロンを中心にしたスタイルから新しいスタイルへの、緩やかな転換が進められている、過渡期とも言える状況にあるからです。
実は、後藤さんは2020年から、セラピスト向けの情報発信をするセラピスト支援者(シェルパ)としての活動に本腰を入れていて、1年半ほどの間に立て続けに4冊の電子書籍を上梓しています。
『あなたのサロンはなぜ予約がうまらないのか』2020/05/29
『ファンが離れない脳ミソの使い方』2020/06/28
『集客するのやめてみた』 2020/10/23
『本業!副業!幸せになる自宅サロンの働き方』2021/10/25
電子書籍の他にも、SNS(Twitter、Instagram、LINE)、noteといった媒体を使って、情報を発信しているそうです。
後藤さんがセラピストライフを歩み始めたきっかけ、さらに新しいスタイルへとシフトしていった、その背景や思いについて伺いました。
ヒントは八百屋さんにありました
セラピストになる以前、後藤さんは大手化粧品メーカーの販売員として、百貨店などで接客を行っていました。
結婚をして、子どもも授かり、充実した生活を送っていたそうです。
娘さんが幼稚園に通うようになり、しばらく経ったある日、娘さんから言われたそうです。「ママ、お家にいて。お迎えがママじゃないと嫌だ」と。
後藤さんが会社勤めをしていたことで、お迎えが遅くこともあり、それを娘さんは我慢していたようです。
当時の仕事にやり甲斐を感じていた後藤さんは、しばらくは娘さんを宥めながら仕事を続けたのですが、徐々に娘さんの表情が険しくなったり、感情が不安定になり始めたことを感じて、後藤さんは娘さんの側にいることを決意します。
では、自宅にいながら、どんな働き方ができるのか。
そう考えている時に、友人から「家でエステサロンをしてみたら?」と提案されます。
それを聞いて、後藤さんは「自分で仕事を立ち上げるなんて無理」と言いつつも、思いも寄らないアイディアに興味を抱き、その日の夜から「自宅サロン」について調べ始めていたそうです。
化粧品の知識がすでにあり、肌やお顔が綺麗になることでお客様の表情が明るくなることに楽しさを感じていたこともあって、後藤さんはフェイシャルに絞ってスクールを探します。
そして実際に施術を体験する中で、技術や信条に感銘を受けたスクールに出合い、そこで学び始めたのです。
こうして、後藤さんは2009年2月に自宅サロンをオープンさせました。
当初、後藤さんは親や友達の紹介から集客をしていこうと考えていて、「自分の家のように寛げるサロン」をコンセプトに、少しフランクな雰囲気を目指していたといいます。
ただ、技術は身に付けても、経営や集客のイロハをあまり知らずに始めてしまったことで、3年目には、「週休5日」になってしまったそうです。
後藤さんは、空いた時間にスーパーでパートを始めます。そして、2、3ヶ月ほど経ったある日、彼女の心の中に、ふと「私、何やっているんだろう」と自分の不甲斐なさが湧き上がってきて、その時に「ちゃんとお客様に来ていただけるサロンにしよう」と心に決めたといいます。
では、どうすればお客様に来ていただけて、サロンを立て直せるのか。それを寝る間も惜しんで考え、試行錯誤しながら実践していったそうです。
「ヒントは八百屋さんにありました。近所の八百屋さんを見て、“店頭に常にお客様がいるわけでもないのに、どうして長年続いているんだろう”と思ったんです。そう思った時に“あ、顧客なんだ”と気付いたんです。顧客っていうのは、常連さんと言いますか、定着したお客様ですね。八百屋さんだったら、病院とか、学校とか、レストランという卸し先があって、顧客と繋がっています。そこへ定期的に宅配したり、注文を取ったりできるから、継続できるんだなってことに気づいて。じゃあ、サロンで顧客を増やすには、何をすればいいんだろうと考えてみました」(後藤さん談)
はじめに後藤さんが実践したことの1つが、丁寧な言葉遣いと態度を心掛けること。
リピーターであっても年下であっても必ず敬語で応対することを肝に銘じたそうです。
当初のコンセプトを変更したわけですが、「家に呼んだお客さん」ではなく「特別な空間にお招きしたお客様」へと格上げしたようなイメージでしょうか。
お客様からしても「いつでも気軽に行ける友達の家」よりも「予約しなければいけない特別な場所」に格上げされるので、セラピスト、お客様双方のモチベーションを上げるにはよい心構えなのかもしれません。
他にも、ブログで熱心に情報を発信するようにしたり、イベントに出て自分のことを知ってもらう努力をしています。
実際に、彼女のサロンに10年以上通っている方は、この頃にイベントで知り合った方なのだそうです。
また、ボディへのリンパトリートメントも学び直すなど、メニューも増やしたといいます。
試行錯誤と実践を繰り返した結果、徐々にリピートへの導線を意識的に作れるようになり、少しずつリピーターが定着していき、いつしか予約がいっぱいになっていました。
気がつけば10年の年月が経ち、後藤さんは新しいステージへの挑戦を始めることになるのです。
いつか自分の考えをまとめて書籍にできたら
私が、「なぜ、サロンを縮小して、執筆活動に移行しようと思ったんですか?」と訊くと、「家で仕事をしなくてもいい状況になったからですね」と笑顔で答えてくれました。
そう、10年も経てば「ママ、家にいて」とせがんだ娘さんも、独り立ちできる年頃になります。
後藤さんは「子どもが巣立つまで、という感覚が心のどこかにあったかもしれません」といいます。
加えて、彼女自身の体力のことも考えて、サロンを小さくしていくことにしたそうです。
「サロンの顧客様をかなりの人数、卒業していただいて、それでもと希望される方が今もサロンに定期的に通ってくださっている状態です。新規の方は募集していませんが、今いる顧客様を大切にして、通ってくださる限りはサロンを続けていきます」(後藤さん談)
ただ、いざどこかの企業に就職となると、年齢的に厳しいという現実問題がありました。
ならば、どうしようかと考えた時に、やりたいことが彼女の脳裏に浮かびました。
それが執筆活動だったのです。
聞けば、「いつか自分の考えをまとめて本を出せたら」という思いが以前からあったそうです。
また、他のセラピストの助けになれたらという思いも抱いていたそうで、そう考えるようになった出来事も語ってくれました。
「きっかけは2つあって、1つは新規客が来ないと悩んでるセラピストに相談されたことです。それで実際にアドバイスすると、それに対して本人が出来ない理由ばかり並べてしまう。私自身を振り返りながら、“だから、来ないんだな”と思ったんです。もう1つはサロンに来た営業の方から“自宅サロンは趣味でやってる人が多い”って言われたこと。それで私は、そういう風に思われないセラピストにもっと増えて欲しいなと」(後藤さん談)
個人サロンを経営するセラピストは、経営方針を自由に決められる代わりに、それを気軽に人に相談できない状況におかれやすいものです。
1人で悩みながら手探りでサロン経営をして、うまくいかない時は自分を責めてしまう。
そんなセラピストの話はよく耳にしますし、1人でもがき続けて、結局セラピストであることを諦めてしまう人も少なくありません。
後藤さんも、そうした状況を「もったいない」と感じていて、悩んでいるセラピストたちに自分の経験を伝えることが助けになるのではないかと考えたそうです。
そこで、情報を必要としている人に情報を届かせるためには、と考えた時に、ブログよりも電子書籍のほうが効率が良いのでは、と考えたといいます。
要点をまとめておけば、好きな時間に一気に読めるからです。
そして冒頭で紹介したように、2020年からセラピスト向けの電子書籍を、立て続けに4冊も発行するに至ったのです。
実際に書籍を出した反響が後藤さんの元に届いていて、「リピーターが増えた」という声もあれば、「感動した」とか「泣けました」というような声までもあるそうです。
そういった声が聞けたことに、後藤さんは「電子書籍を出して本当に良かったなと思います。求める人に届いて、喜んでいただけた声が聞けるのが一番、幸せですね」と笑顔で話してくれました。
これからも、自分のサロンでお客様を施術することや、いろいろなサロンに足を運んで施術を受けることでセラピストの世界と関わり続けて、他のセラピストの助けになるような情報を発信し続けていきたい。
その先に、それぞれのセラピストが自分らしく、無理なく楽しくセラピスト業が続けられる世界があるのではないか。
彼女が思い描く世界をそんな風に、微笑みながら語ってくれました。
校長からのメッセージ
今回は、自宅セラピストから、他のセラピストの活動を支援する立場へと移行していくという、珍しいタイミングでお話を聞かせていただくことができました。
彼女の場合、自分が歳を重ねるとともに、家族が成長していき、状況が変わっていくことに合わせて、セラピストライフを変化させていっているのです。
いつかはセラピストライフに変化を余儀なくされる時が訪れる、ということ。
セラピストがその活動をスタートさせる時には、それを考えることはあまりないかもしれません。
しかし、月日が流れれば、お客様も、自分も、自分の家族も、それだけ歳を重ねるわけですし、10年経てば社会も変わっていくでしょう。
すると、後藤さんのように次のステージを考える事は、不思議なことではないのです。
私は、セラピストの学校などのオープンキャンパスなどで、「セラピストの終活」についてお話しすることがあります。
セラピストがどうやって、その活動を終わらせるのか、です。
セラピストの場合、ただの「店じまい」ではありません。
それまで支えてくれたお客様に丁寧に説明をし、もしかすると他のセラピストに引き継いでもらう必要があるかもしれません。
長く心身のメンテナンスを任されてきたのに、急に手を引くというわけにはいかないからです。
ただ、上手に店じまいができたのなら、その後も、きっとよい関係性を維持できるだろうと思います。
もしかすると、昔なじみの友達になるかもしれませんし、あるいはサロンワーク以外の別のセラピストライフを歩む時にファンであり続けてくれるかもしれないのです。
サロンワーク以外のセラピストライフというと、スクール経営や講師活動への移行も耳にします。
そして、後藤さんのように、サロンでの活動を縮小しながら、それまでのセラピストライフを活かした執筆活動に取り組んでいくというのも、とてもよいスタイルだろうと思いました。
後藤さんに執筆活動について聞いた時に、「全然無理してないです」と笑顔で話してくれました。
「喋るよりも、文字で書く方が言葉が出るんですよね」とも。
おそらく、作家的な気質をお持ちなのだろうと思いますが、ご自身が表現しやすい方法を自覚的に選んで、自分が伝えたいことを淡々と伝えることに徹することも、無理なく活動を続ける上で大切なことだろうと思います。
文字を通して、後進のセラピストを励まし、可能性の扉を指し示すこと。
それもとても大切で、立派なセラピストライフだと思うのです。
後藤みゆき~電子書籍
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後藤みゆき~twitter
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