福岡県宗像市、海辺から程近い住宅地で自宅サロンをしている巻木紀代美さんのセラピストライフを紹介します。
巻木さんのサロンは、庭木茂る自宅のリビングを開放していて、まさしくリトリートサロンの雰囲気です。実はこのサロン、月に5日から10日の営業で、お客様は1日1人のみだそうです。
と言いますのも、巻木さんは月の半分はセラピストとはまったく違うお仕事をしているからです。いわば、ダブルワークスタイルです。
「別のお仕事もまた、セラピストとしての成長につながっています」と、巻木さんは言います。
今はこのようなセラピストライフを送る彼女ですが、もともとはサロンワークのみだったそうです。
庭木茂る静かな空間の中で
彼女は10代の頃から植物の香りに興味を持っていたそうで、結婚後にアロマセラピーを学んでサロンを開業。それからすでに約10年になります。
サロン開業当時は、予約があればサロンを開くという日々を過ごしていたそうです。
リトリートサロンはこうして始まった
では、なぜ今のようなスタイルとなったのか。
そのきっかけは、彼女自身が体調を崩したこと。そのときに、改めて自分のセラピストライフを見つめ直したそうです。
「自分は人の反応を見ながら生きてきたのではないか」
「自分らしくいることが大切なのではないか」
「お客様自身にも、自分らしさを見つめるための空間を提供しよう」
そう思ったとのことです。
「本当の意味で一人ひとりにしっかりと向き合いたい。サロンをリセットの場や、リラックスできる場にしたい。そのためにも自分のセラピストライフを改めて考えたんです」
巻木さんが今のスタイルを実践するようになってから2年が経とうとしているそうです。実際に取り組んでみて分かった事を聞きました。
すると、サロンの活動以外に2年前から始めた別のお仕事によって、自身の世界が大きく広がったそうです。
結果として、サロンのお客様との関係性もより良くなったと言います。
「以前はお客様を変えようという思いが強かったことに気づいて、今ではお客様の中にある自分自身で良くなる力を邪魔しないことを意識した上で、セラピストとしてできることを考えられるようになりました」
お客さまとの新たな関係が生みだされて
こうした彼女の変化の影響なのか、今ではサロンのお客様が、お身体のこと以外にも様々な相談することが増えたそうです。
その際には、正解を出すことよりも巻木さん自身の言葉を伝えることを大切にしていて、するとその会話の中でお客様自身が答えを見出していくという流れが、ごく自然にできるのだそうです。
今後、サロンワークと別の仕事のダブルワークスタイルをしようと考えているセラピストにアドバイスを求めたところ、「仕方なく別の仕事をするのでないのであれば」と前置きをした上で、
「別の仕事をすることで、時代の変化とともにセラピストに求められる学びや知見を広げられるのではないか」
「ただ、体力が必要なので、自分自身へのメンテナンスも怠らないこと」
と教えてくれました。
これからどのようにしていきたいかを聞くと、彼女は笑いながら「現状維持」と言います。
それは、今のサロンの形を、お客様に提供し続けることです。
彼女のセラピストとしてのポリシーは、「お客様の自発的幸福と自発的治癒を邪魔しないこと」。
それがお客様一人ひとりにとって幸せなことだと確信があるのでしょう。
校長からのメッセージ
現在、巻木さんのサロンの平均的客単価は10,000円から20,000円。提供するのは、主にフェイシャルや全身のトリートメントです。
ただ、1日1人限定なので売り上げそのものは多くはありません。
しかし、広告費は使わず、ホームページやSNSのみで、新規のお客様はすべて既存のお客様からのご紹介であるとのこと。
これは、お客様一人ひとりに対して、求められたセラピーを提供し続けられている実績あればこその方法だと言えます。
一般的に、セラピストが他の仕事と掛け持ちするダブルワークスタイルは、セラピストライフのスタートアップ期によく取られる方法で、ゆくゆくセラピストの仕事に専念できる状態を目指します。
巻木さんのケースでは、その反対の過程を経ています。
初期に自宅でのフルタイムのサロンワークをしていたところから、あえてダブルワークを選択しているのです。
これは、セラピストにとっての成功が決して一様ではないことを示す一例であると言えます。
目の前のたった1人のお客様に集中することは、セラピーのクオリティを保つために必要なことだと私は考えています。
では、そのための環境や状況はといえば、何か決まった形があるわけではないはずです。セラピストの数だけあってもいいのです。
だからセラピー以外のお仕事を持っていても気兼ねする必要はなく、むしろ別の活動を通して得られる知見や経験もセラピーに活かそうという姿勢こそ、多様性の求められる今後の生き方につながるのではないでしょうか。