東京新宿御苑にて、16年にわたって個人サロン「アロマ&リフレクソロジー ねむの木」を経営し、東京を中心に出張セラピーの提供もしている、竹本まさえさんのセラピストライフを紹介します。
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竹本さんは「体は足から作っていくもの」という考え方のもと、リフレクソロジーを中心としたメニューを提供しています。
下肢やボディへのアロマトリートメント、フェイシャルトリートメントなどをカスタマイズして、お客様1人ひとりにご要望に合わせて施術内容を組み立てているそうです。
竹本さんが足への施術にこだわるのは、足の改善が全身の不調の改善にも、また生活習慣の質の向上にも繋がっていると考えているからです。
「現代は、多くの人が足をあまり使わない生活をしているように思います。そのためなのか、肩などのコリは気になっても、下半身の筋力の低下やむくみを気にしてない方がすごく多いように思います。トリートメントの心地よさとか、足が綺麗になると毎日楽しいということをきっかけに、足の重要性を知っていただけたらと考えています」(竹本さん談)
たしかに、足腰にトラブルがあることで、高齢者が買い物やレジャーなどに出かけられなくなり、さらに足が弱るという負のループに陥ってしまうというケースをよく耳にします。
竹本さんは、下肢を中心に施術をする中で、足の大切さを伝えるようにしているとのことで、サロンでのトリートメントがきっかけになって、運動を習慣にした方もいるそうです。
竹本さんのサロンのお客様は40〜50代の女性が多いそうですが、60代、70代のお客様もいるとのこと。
以前には、88歳からサロンに通い始めた方もいて、竹本さんはお客様のご自宅に出張する形で103歳までケアを続けたこともあるそうです( 【出張セラピスト編】参照)。
また、彼女のサロンを利用するお客様には大病を患った経験のある方も多く、そうした経験から定期的な体のメンテナンスとして、竹本さんの元に通っているといいます。
竹本さん自身も、サロン開業当初から「自分へのご褒美というよりも、月に一度の予防的なケアとして来て欲しい」と考えていて、サロンの雰囲気も料金も、そうした目的の人に目線を合わせて設定しているそうです。
「例えば、乳がんや子宮に関する病気を患った方の場合など、カーテン1枚で仕切ってあるような空間だと、病状のことを話しづらいんですね。完全個室でプライバシーが守られていて、そこでパーソナルケアを受けられることで安心感があると、皆さんおっしゃってくださいます」(竹本さん談)
疲れたら来るのではなく、「疲れない心と体を作る場所」というコンセプトを掲げて、サロンを運営している竹本さん。
彼女が、なぜ病気の予防を目的とする方や高齢者に寄り添ったセラピストライフを歩んできたのか。その理由の一端をインタビューの中で聞くことができました。
「ああ、こんなサービスが病院にあったら、みんな受けるのにな」
「セラピーに興味を持ったきっかけはなんでしたか?」と私が聞くと、「脚痩せ専門のエステティックサロンに通ったのが最初ですね」と竹本さんは笑顔で答えてくれました。
彼女は思春期の頃から自分の身体にコンプレックスを持っていたとのことで、「社会人になったら、絶対にエステに通おう」と心に決めてたそうです。
ただ、社会人になりたての頃の、20代前半の竹本さんは、仕事にも遊びにも熱中していて、「若さに任せて不摂生し放題の毎日ですよ」と彼女は振り返ります。
そんな状況だったためか、エステサロンで足のマッサージを受け始めた頃は、竹本さんいわく「テレビでタレントさんがする罰ゲームみたいに痛かった」とのこと。サロンに勧められた足ツボマットも、両足同時には踏めなかったそうです。
そんな竹本さんが足のケアの影響を実感したのが、ずっと悩んでいた極度の便秘症が改善され始めたことでした。
また、いつもだるかった体も、頭痛がするほど酷かった肩こりも、いつの間にか軽くなっていて、「これは足のケアを受けたからだよね」と思ったそうです。
これがきっかけで、竹本さんは足ツボの本などを読むようになったといいます。
社会人生活が数年経った頃に結婚しますが、思いもよらず竹本さんは不妊治療に通うことになります。
それは20年ほど前のことで、不妊治療への認知度がまだ低かったこともあり、竹本さん自身も自分の体に起きていることを受け入れられなかったそうです。
その日々は、身体的にも辛く、それ以上に精神的にも追い詰められていて、うつ的な感情になっていたと、竹本さんは当時を振り返ります。
そんな彼女を慰めてくれたのは、ふと立ち寄ったリフレクソロジーサロンでした。
セラピストには不妊治療の悩みなどを打ち明けていないにも関わらず、施術が終わる頃には頭の中が整理されて、気持ちも落ち着きを取り戻せたとのこと。
竹本さんの「足のケア」とセラピーへの興味はさらに深まっていきました。
そして、もう1つ、竹本さんがセラピストの道を歩み始める、大切な出来事がありました。
それはお父様が患った病、ガンでした。
お父様が抗がん剤治療を受けて、辛い思いをしているのを見て、竹本さんはお父様の足をマッサージをしたそうです。
聞けば、竹本さんは子どもの頃にご両親にマッサージをしていたとのこと。病院でのマッサージも独学でしたが、お父様の顔が柔らかくなって、こんなことを言ってくれたそうです。
「ああ、こんなサービスが病院にあったら、みんな受けるのにな」
この一言に背中を押され、竹本さんは本格的にリフレクソロジーのスクールに通い始めます。
そして、スクールを卒業した後、竹本さんは都内のリフレクソロジーサロンに勤務し、経験を積みました。
そのサロンに勤務して3年目になる頃には、新人の教育や管理などの仕事も任されるようになったそうです。
ただ、その一方で、お客様に直接触れられる機会が少なくなっていき、竹本さんは自分のサロンを持つという決断をします。
「施術でお客様の肌に触れることが何より楽しくて、私もトリートメントをしていて気持ちがいいんですね。何か、見えない絆が交流するような、何とも言えない心地良い循環が生まれる感じが好きです。自分が施術者として現場に立ち続けるためにはと考えた時、やっぱり自分のサロンを持たないと、と思いました」(竹本さん)
竹本さんは「私は経営者の器じゃないんですよ」とも言います。
聞けば、彼女のご実家も飲食業を営んでいて、自営業の大変さをずっと見て来たのだそう。
だから、「自分が経営なんてとんでもない」と思っていたといいます。
それでも、自分でセラピーを提供しつづけたい気持ちの方が勝り、今から16年ほど前に新宿御苑に「アロマ&リフレクソロジーねむの木」をオープンさせたのです。
ちなみに、竹本さんが最初にサロンを始めた場所は、レンタルスペースだったそうです。
というのも、サロンに勤務していた頃のお客様の中に、竹本さんの独立を聞いて「引き続き施術をしてほしい」と言ってくれる方が何人もいて、急いで探した結果がレンタルスペースだったとのこと。
ただ、そのレンタルスペースのオーナーさんと仲が良くなったことで、不動産業者に繋げてもらうことができたそうで、同じマンションの一室に移転し、現在に至ります。
「これからも、体を通してお客様の心と生活に寄り添う場所を作りたい」と語る竹本さん。
今後の日本のセラピストが担う役割りについて、こんな話をしてくれました。
「アメリカのドラマなどを見ていると、日常的にカウンセリングを利用しているシーンが描かれることがあります。日本でもメンタルケアが普通のこととして受け入れられる日がくるのかなと、セラピストになる以前から考えていました。確かに昔に比べれば、日本でのメンタルサポートへの理解は進んできましたが、でもまだまだ一般的なものではありませんし、気軽にカウンセリングに通うという習慣は難しいのかもしれません」
「そこでマッサージであればカウンセリングより敷居が低いと思われますし、体を緩める場所で“知らぬ間にメンタルケアもされている”というスタイルが受け入れられやすいのではないか、と思いました。セラピーやサロンに対して、美容院くらいの感覚で通って頂けるようになるといいですね」(竹本さん談)
サロンでセラピーを受けながら、セラピストと交流をする。その中で、自然に体だけでなく、心も整っていく。
それは、「脚を細くしたい」という気持ちからマッサージの魅力を知るとともに、心までも癒された、竹本さん自身の経験と重なります。
竹本さんのサロンに来るような大きな病を経験した方はもちろん、社会や家庭で責任のある立場にある方たちが、自分の気持ちを素直にこぼせる場所はそれほど多くありません。
不安な気持ちや心の揺らぎについてを安心して話せて、同時に体を緩めることができる場所といえば、やはりセラピストのいるサロンはその筆頭にあげられるはずです。
ぜひ、後進のセラピストの育成も含めて、志を同じくするセラピストたちに、竹本さんの16年の経験とメンタリティをシェアしていってほしいと思いました。
その先に、彼女が思い描く、サロンが身近にある社会があるのだろうと思います。
校長からのメッセージ
現在、竹本さんのサロンのお客様には、リピーターが多いそうです。
本文でも紹介しましたが、サロン勤務時代から指名を受けていたお客様もいるので、18年ほどのお付き合いになるといいます。
それだけ長くお客様と繋がれるということは、やはりお客様と唯一無二の関係性を築いてきたということでしょう。
また、婦人科系など、女性の悩みを相談できる場所として、やはりお客様にとって他に替えがたい存在になっていることも大きな要素だと思います。
もちろん病気の治療はできませんが、生活スタイルや予防について施術時間の2時間余りの間にゆっくりと話ができるというのは、セラピーサロン以外にはないように思えます。
お客様にとっては、一度、気の合うサロンに巡り会えば、よほどの事情がない限りは別のサロンを探す必要性はないので、リピーターになりやすいという傾向にあるのではないでしょうか。
さて、新規のお客様はどうやって竹本さんのサロンに辿り着くのでしょうか。
1つは病院などへの出張セラピーがあります( 【出張セラピスト編】参照)が、もう1つ、来店のきっかけになっているのが、ブログなのだそうです。
竹本さんは、開業当初からブログを通じて、自分の想いを発信することを続けてきています。
そこには、ご自身の経験や闘病するお父様に寄り添った経験も、あるいは、了承を取った上でお客様からのお悩みや出来事などを書いているそうです。
新規のお客様はご自分の悩みについて調べる中で、竹本さんのブログに繋がり、それを熱心に読んだ上でアクセスしてくるのでしょう。
病気になったり、不妊治療で精神的に疲れたりした時、家族に心配掛けまいと悩みを抱え込んでしまう方は多いと聞きます。
そういう方たちにとって、自分の悩みについて、じっくりと耳を傾けてくれて、優しく触れてくれる場所があることは、大きな救いになるだろうと思います。
竹本さんは、セラピストとして大事にしていることを、3つ挙げてくれました。
1,とにかくお客様のプライバシーを守ること。
2,お客様の言葉気持ち意見にジャッジメントは絶対にしないこと。
3,お客様との距離感を大切にすること。
どれもお客様が安心して心を開くためにも、とても大切なポイントだと思います。
インタビューの中で、「私の使命は“頑張りたい女性の、頑張らない時間を充実させること”です」と笑顔で語ってくれた竹本さん。それはとても素敵な使命だと思いました。
コスパだとか、タイパだとか、子どもから大人まで、誰もがいつも何かに追われているように頑張らなくてはいけないこの現代社会において、もしかすると「頑張らない時間」ほど贅沢な時間の使い方はないのかもしれません。
それも、多くのセラピストが社会に提供できる大切な価値感なのかもしれません。
ねむの木
ねむの木便り