東京原宿にて18年にわたって個人サロン「アトリエサロン・ハーモニーウィズアース®」を経営し、トリートメントとセッションを提供する一方で、講座やスクールも開催している毛利奈緒子さんのセラピストライフを紹介します。
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毛利さんは8年近くの間、編集者とセラピストの仕事を両立させ、18年ほど前から現在のようにセラピストとして活動してきたという、特徴的なセラピストライフを歩んでいます。
編集者としては、ファッション誌、東洋医学、セラピスト専門誌、野菜の情報誌など、様々な情報に触れ、発信する立場で活動していました。
また、後ほど詳しく紹介しますが、彼女は自身のアトピーをきっかけに、アロマテラピー、フェイシャル、ボディケア、食養生、心理学、スピリチュアル、瞑想など、人の心身の健康に関わる様々な学びをしながら、自ら実践を重ねてきたそうです。
そんな毛利さんが現在、提供しているのは、「ヒーリングホウルエナジーセラピー」。
通称、禊(みそぎ)ケアです。
これは「体は心の容れ物であり、心の中に魂がある」という考えのもと、音、精油、石、オーガニックコスメなど、様々なアプローチによって、お客様の体・心・魂のバランスを整えていくという、彼女のオリジナルメソッドです。
お客様一人ひとりの状況に合わせてアプローチを変えていくため、常にオーダーメイドメニューであり、同じお客様でも状況が違えば、別のアプローチになるといいます。
以前は、フェイシャルやボディーなど、部位や目的によってメニューを分けていたそうですが、「お客様ぞれぞれの全体性を大切にする」というテーマを突き詰めた結果、施術内容はお客様からお任せされているスタイルになったとのことでした。
お客様は会社経営者や会社員、看護師、主婦など様々。
サロンに来るきっかけとしては、体の不調や肌のトラブルが多いそうですが、時には恋愛や婚活の悩みを抱えてくる方もいるとのこと。
「自分を変えたいタイミングで来ているのかもしれません」と毛利さんは言います。
また、リピーターの中には、毛利さんいわく「儀式的に通っている」方も少なくないそうです。
新規のお客様は、ある程度の期間は習慣的にサロンに通いますが、当初の悩みが解決された後は、自分を褒めるためのご褒美として、あるいは人生の転換点で自分の意志を確かめるように、毛利さんのサロンに訪れるようになるということです。
「セラピーというのは、“祈りの儀式”にも通じていると私は考えています。ヒーリングホウルエナジーセラピーは、“こんなに丁寧に扱われるほど、あなたはとても大切な存在なんですよ”ということを思い出してもらい、今の自分に必要ではない考え方や囚われとお別れする儀式なんです。お客様の状態をポジティブな方向に切り替えるタイミングになるといいな、と思っています」(毛利さん談)
毛利さんの施術は、清めの儀式になぞらえて、お客様や友人からは“禊ケア”と言われているそうです。
儀式というと、宗教的で縁遠く感じる方もいるかもしれませんが、初詣での心持ちを思い出してもらえば、感覚的に分かりやすいかもしれません。
初詣では、年の初めに神様で手を合わせた瞬間に心機一転して、目標に向かって進もうと気持ちを切り替える儀式ともいえます。
セラピーという体験を通して、無理をしている自分に気付いたその瞬間に心機一転して、心理的あるいは習慣的な悪い循環を断ち切ろうというわけなので、儀式というのはとても面白い表現のように思いました。
現在は、お客様に「あなたは大切な存在だと気づいてほしい」という想いで、セラピーを提供している毛利さん。
彼女がどのような経験を経て、現在のようなセラピストライフを歩むようになったのか。それを伺うと、彼女自身が自らを肯定するために、長く苦しんできたことが分かりました。
地下鉄の車窓に映る自分の顔を見て、
毛利さんの現在のセラピストライフに繋がる直接的なきっかけは、自身のアトピーを改善するためにオーガニックコスメを手作りし始めたことだったそうです。
ただ、彼女が現在のような考え方を持つまでの背景には、幼少期からの大人になるまでの過程で大きな自己評価の変化がありました。
「物心付いた頃から、自分の事が嫌いだったんですよ」と、毛利さんは自己分析を交えて語ってくれました。
教育者の家庭に生まれた毛利さんは、父親の赴任に伴って何度も住む場所を変えながら育ったとのことで、5歳の頃にはドイツでも生活したとのこと。
幼い頃の毛利さんは、両親の顔色を伺ってばかりで、自分の本音を隠すような子どもだったそうです。
「両親が望む正解を言わないと可愛がられないと思って、自分に嘘をついていた」と、毛利さんは当時の事を振り返ります。
そうやって、両親に好かれる「よい子」を演じ続けてきた毛利さんでしたが、10歳の頃に妹が産まれたことで、今度は「よいお姉ちゃん」を演じなければならなくなります。
さらに、母親が育児の悩みから問題を抱えてしまったことで、思春期に差し掛かっていた毛利さんは心のバランスを崩してしまったそうです。
今ではまるで想像できませんが、10代前半の彼女は、常に苛立っていて、自分の女性性を否定するように男子のような格好をしていたそうです。
その苛立ちが肌に出ていたのか、顔はニキビだらけで、中学生の3年間はほとんど鏡を見ないほどに、自分の事を嫌っていたと話してくれました。
そんな毛利さんは、高校進学が迫る頃に母親が通うメンタルクリニックに連れていかれたそうです。
そこで医師に泣きながら、心に溜め込んだ想いを吐き出したところ、薬をいっさい使わずに、気持ちが晴れるという体験をします。
このことから精神科医の勉強ができる大学に進むことを目標にして、毛利さんは高校を選び、進学したといいます。
「可愛らしい制服なんて似合わないな」と思いながらも高校に通い始めた毛利さん。ある日、地下鉄の車窓に映る自分の顔を見て、ショックを受けたそうです。
「電車の窓に映る私の顔は、眉がつり上がって、眉間にシワがあって、への字口。そんなきつい顔をしていました。それを見て、“私ってこんな顔じゃなかったはず”って思ったんです。その時、“自分の本当の顔に戻らないと”って思ったのをよく覚えています」(毛利さん談)
高校という、家族とは別の社会を経験したことで、毛利さんは自己肯定感を少しずつ取り戻していき、その後、当初の目標を果たして大学に入り、心理学のゼミに所属することになります。
ただ、そのゼミの教授が、なんと偶然にも長年うつ病を患っており、「精神科医は、重篤な患者さんに向き合うから、うつになる人が少なくない。そうして病院を持ち回りで通院しているんだ」という、信じ難いセリフを聞いて大変ショックを受けたそうです。
「うつになる人を減らしたくて、精神科医を目指したのに。自分がうつになることを当たり前と思うなんて、本当に信じられなかった」と、大きな落胆と憤りから、毛利さんは思い悩んだ末、別の道を探そうと大学を辞めてしまったそうです。
「目指していた職業は間違っていたのだろうか?という思いと同時に、病気という診断をされる前の状態で救われたり、未然に改善できるような環境や仕組みは、この社会にはないのだろうか?と、すごく腹が立っちゃって」(毛利さん談)
毛利さんは、別の大学に入り直し、今度は世界の地域研究から社会の仕組みを知りたいと、中東の研究ゼミに入りました。
それは、日本とは全く正反対のように感じる異文化や宗教、文化、戦争と平和について学ぶことが、今の日本の現状や、現代社会の実相を知ることに繋がるはず、と考えたからだったようです。
同時に、実社会を動かしているマスメディアの実態を知りたいと、自らの目で見るために、毛利さんはアルバイトでマスコミの現場に入るようになります。
そして、テレビ局、新聞社、出版社と数社のマスコミでアルバイトをする内に、アシスタントとして入っていたファッション誌の編集部に声を掛けられ、毛利さんは出版社の社員として社会人生活をスタートさせることになり、その後、数社でも編集者として働くことになったのです。
その人が今、悩んでいることにフォーカスしない
毛利さんがアトピーに悩まされるようになったのは、編集者として働くようになってからでした。
彼女は自分の肌に合うスキンケア用品や化粧品を探したそうです。
当時は、今ほど市販のオーガニックコスメが充実しておらず、その定義すら曖昧な頃でした。
毛利さんは成分や素材について調べ、自作もする中で精油のことを知り、アロマテラピストの資格を取るまでになります。
そして、オーガニックコスメを扱うエステサロンが行っていたスクールでフェイシャルを学んだ後、そのサロンで経験を積みました。
このフェイシャルを皮切りに、毛利さんはボディケア、食養生などを学び、さらに心の問題に取り組むためにスピリチュアルな学びや瞑想も実践していったとのこと。
こうした学びと実践の中で、毛利さん自身の心の問題も解消されていき、次第に肌も綺麗になっていったそうです。
そして、人の健康とは、ボディ(身体)・マインド(心)・スピリット(霊性・魂)が自然に調和され、地球とともに生きることであると、毛利さんは気がつき、自分のサロンを開くとき「ハーモニーウィズアース®」と名付けたということでした。
「ヒーリングや植物療法の歴史を辿ると、神官やシャーマンたちが宗教的に使っていたり、王族をケアをするためのものだったりします。それは、世界に一つしかない魂の容れ物である身体を大切に扱い、心身が健全であるように祈る、愛のある行為なんじゃないかと思います。施術を受ける人も、自分が神聖で大切な存在だと自覚すれば、口にする言葉にも気をつけるでしょうし、周りの人にも丁寧に接することができるはず。だから、“大切な自分”に気がつくことや、自分を大切するような行為が、セラピーにはすごく大事な要素なんじゃないかと思っています。そんな気持ちで始めたのがヒーリングホウルエナジーセラピーなんです」(毛利さん談)
私が「セラピストとして大切にしていること」を訊くと、毛利さんは「その人が今、悩んでいることにフォーカスしないってことですかね」と笑顔で答えてくれました。
「例えば、恋愛の悩みだとしても、その人は本当は恋愛に悩んでいるわけじゃなくて、人生全体を見た時に、他に上手くいってないことや思考のクセとかがあって、恋愛に問題が生じている場合があります。だけど、本当の課題を見たくないから恋愛にまみれて見ないようにしてる、ということもあります。だから今、その人がどういう状況に置かれていて、本当に解決する必要があるのは何か、と俯瞰して見るようにしています」(毛利さん談)
悩みそのものを、同じ所をグルグル回っているだけで一向に抜け出させない迷路に喩えるとするならば。グルグル回っている経路をどんなに再確認しても、出口は見つけにくいでしょう。
それよりも、客観的に俯瞰してなぜ迷い道から抜け出せないのか?なぜそこにはまり込んでいるのか?を共に考えた方が良い道が見つかる。
同様に、恋愛に限らず、お客様の悩みについて、お客様本人が認識できる範囲をフォーカスしても、答えは見つかりにくいというわけです。
そこで、人生という長いスパンや、社会という広い範囲を見渡せる目線から、お客様の悩みの本質を捉えること。
さらに、お客様にも俯瞰する目線に気づいてもらうことも、またセラピストの役割なのでしょう。
それは体調の悩みであっても共通しているのではないでしょうか。
例えば膝が痛いからといって、膝を擦るだけでは問題は解決されにくく、お客様の全身や心の影響、さらに人生にまで視野を広げないと、本当の問題解決には結びつかないこともあります。
そうした意味において、「ハーモニーウィズアース」とは、地球規模の全体性に着眼した問題提起といえるのかもしれません。
「最近、婚活に関するカウンセリングの仕事があって、婚活の世界ってすごいですね」と明るい笑顔で語る毛利さん。
彼女のバックボーンやセラピストライフを知った上で考ると、言ってみれば彼女は「幸せ探しのプロ」。セラピストの働きの本質からすれば、この社会の調和(ハーモニー)を整える役割をもセラピストは担えるのかもしれません。
校長からのメッセージ
今回は、マスコミとセラピストを両立させてきたという、珍しい経歴を持つセラピスト、毛利奈緒子さんのお話を聞きました。
マスコミというと情報の川上側(発信源に近い)にあり、いち早く情報を得られるという意味で優位な立場にあると言われます。
そうした情報の優位性を利用したビジネスは世の中にはたくさんあるわけですが、それがセラピストにもどれほど当てはまるのか、という話題に興味を持つ経営者は少なくないでしょう。
しかし、今回の毛利さんのケースは、そうした興味の持ち方を、良い意味で裏切ってくれたように思えます。
つまり、情報の優位さとは関係なしに、彼女の編集者的な気質が、彼女のセラピストライフに、魅力と厚さをもたらしていると感じられたからです。
編集者にもいろいろなタイプがいると思いますが、情報を探すことも、それを整理することも、文章を書くことも苦にならず、いわゆる「マニアック」と言えるほどに深掘りできるタイプがいて、毛利さんもそうした能力の持ち主なのだろうと思います。
【育成セラピスト編】で触れることになりますが、オーガニックコスメに対する毛利さんの取り組み方は、メーカー顔負けに感じられましたし、情報発信の面ではマスコミ的な性質を存分に活かしているように思えました。
もう1つ、興味深いことは、お客様との関係性についてです。
サロン経営の一般的なモデルとして、月に一度のペースでお客様にリピートしていただくというものがあります。
お客様にとっては月1のメンテナンスであり、サロン経営も見通しが立ちやすくなるので、よく耳にするモデルです。
しかし、毛利さんの場合、「次回は何ヶ月後くらいに来るといいですよ」と提案はするものの、ご予約自体はお客様に委ねる部分が大きいようです。
年に一度、誕生日に来る方もいれば、季節の変わり目に来る方もいるということですが、それでもお客様との関係性は途切れないといいます。
もうかれこれ10年以上のお付き合いになるお客様もいるのだそうです。
ご褒美や決意のために「儀式的に」来店するということでもありますが、やはり「毛利さんのサロンに行きたい」と思い立った瞬間こそが本人が変わるタイミングである、という考えを毛利さんは持っているのではないかと思うのです。
考えてみれば、それはすごい信頼感です。まるでお客様の無意識の働きまで信じているような感覚かもしれません。
「お客様自身が、自分のことを信じられなかったり、自分のことが分からなくなっていたとしても、ご本人よりも私が信頼してます。そういう気持ちで向き合ってきたことで、お客様とすごく深いところでの信頼感が構築されているような感覚は確実にありますね。本当に信じてくれている方達がいるっていうのは、私にとっても心の支えだし、ありがたいなって思いますね」(毛利さん談)
サロンに来ていただけた時には、セラピストは気持ちと力を尽くしてセラピーとセッションに取り組みます。
ただ、いくらセラピストが努力しても、お客様自身が気づかないと解決されない問題も必ずあって、ある意味で「お客様の気づき待ち」のような状況になるだろうと思います。
その時がいつ来るかはセラピストには知る由もありませんが、お客様が「あの時言われたことは、こういうことだったのか」と気付く時が来ることを、セラピストは信頼して待っている。そんな関係性を築けるというのは、今時珍しいように思います。
セラピストとお客様の間に築かれる関係性とは、実に魅力的で不思議な在り方をしているものだと、改めて思わされたインタビューでした。
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