横浜や東京で8年、岡山で12年に渡って、個人サロン&スクール「ハワイアンリラクゼーションサロン ぷめはな」を営んでいる、武用亜希子さんのセラピストライフを紹介します。
【個人セラピスト】編はこちら
武用さんはこれまで20年にもわたって生徒にロミロミを教えてきており、現在は岡山県北区にある個人サロンにスクールを併設する形で活動しています。
主なカリキュラムは40時間(200,000円〜)のコースで、マンツーマンもしくは少人数で行っているそうです。
武用さんは、サロンと同じくスクールでもおしゃべりの時間を大切にしていて、講習時間とは別に1時間以上もおしゃべりをすることもあるのだそう。
ときには、生徒のプライベートな相談などの話題で、講習時間3H+昼食+おしゃべりをして、結局5、6時間も生徒といっしょにいることもあるとのこと。
そんな自分のスクールのことを「寺子屋みたい」と武用さんは笑顔で表現してくれました。
武用さんが生徒のことを深く知りたいと思っているのは、もちろん相手を知りたいと思う心からですが、さらに生徒1人ひとりに合った施術スタイルの構築にも繋がっているからです。
目指しているセラピーの在り方は生徒によって違い、また手の形、体の大きさなどにも個性があり、そして動きの中での得意・不得意なども生徒1人ひとりにあります。
だから、その生徒らしいロミロミのスタイルがあると武用さんは考えているのです。
「今は、私のコピー&ペーストを作っても意味がないと考えています。例えば、私の親指は反り指ですが、そうでない人に私と同じことをさせるのは難しいんです。」
「お客様の体をほぐすことが目的なら、手のひらを使っても、肘を使っても、こぶしを使ってもいいはずですよね。しっかり揉みほぐしたい生徒もいれば、癒やし系のロミロミをしたい生徒もいる。コミュニケーションをする時間の中で、その生徒のことを知り、その人に合った方法を伝えていければいいと考えています」(武用さん談)
武用さんがロミロミを教え始めたのは、20年前のこと。個人サロンを開いて半年経った頃に、セラピストの仲間から教えて欲しいと頼まれたことがきっかけでした。
自分の技術通りに再現してもらうことが教えることだと思っていた。
当時の彼女が「技術が第一」「技術がすごいと褒められたい」という価値感を持っていた時期だったこともあり、生徒全員を自分と同じ技術で、同じレベルにすることを目指していたそうです。
「私はこうしている」と自分の技術を細かく説明して、その通りに再現してもらうことが‟教えること”だと考えていました。
今の彼女の言い方で表現すれば「コピー&ペースト」を作ろうとしていたわけです。
そんな武用さんを変えたのは、いったんはやめようとしていたセラピストライフを再開した時の気持ちの変化(【個人サロン編】参照)と岡山への移住、さらに、あるクム(先生)に出会ったことでした。
そのクム(先生)と出会ったのは、武用さんが岡山に移住してからしばらく経った頃。ハワイからクムとその弟子たちがチームで来日した時のことでした。
彼らのロミロミを見て、武用さんは衝撃を受けたそうです。
「それぞれみんな、やり方が違うんです。その理由を聞くと、“事細かく習わない”と言うんです。彼らは、とにかく人の動きを良く見て学んで、自分の体を上手に使うことを大切にしているようでした。それに、3日間のワークショップのうち、ベッドが出たのはほんの2、3時間だけ。ときには、ひとしきり川遊びをした後で、ようやく講座が始まるなんてこともありました。彼らにはそれでOKとする空気があるんです。私がそれまで持っていた価値感が崩れた瞬間でした」(武用さん談)
クムたちのロミロミが持つ自由さに気がつき、それが武用さん自身のロミロミや教え方について、考えを変えるきっかけとなったようです。
自分の感覚を信じられる人を育てる
現在、武用さんが育成の中で心掛けているのは、「自分の感覚を信じられる人」を育てることだと言います。
例えば、「この部分が冷えて固まっているから、暖かな手で触れてあげたら、気持ちいいだろうな」と感じたなら、施術の手順に縛られずに、それを実行できること。
確かに決められた手順通りに施術をすれば、時間通りに終えられます。
ですが、セラピーの目的は「時間通りに施術を終えること」ではないはずです。
ただ、「ここに触れてあげたら気持ちいいはず」と感じる自分を信じられるようになることは、テクニックを覚えるよりも、人によってはずっと難しいことなのかもしれません。
自分を信じられるようになるには経験値が必要ですし、さらに、武用さんがハワイのクムと出会ったように、手順や形式に捕らわれないことも良しとする前例に触れることも実は重要な要素です。
そういう意味では、武用さんの生徒にとって、彼女の存在こそがその前例ということなのでしょう。
これからについて武用さんに聞くと、「カルチャーセンターで習い事としてセラピーを教える講座を企画中です」と笑顔で答えてくれました。
「日本人は口下手だから、愛情を手から伝えられるといいな、と考えています。例えば、お母さんが子どもに“大事に思っているよ”とか“がんばっているね”と、口ではなくて、手で伝えてもらえるようになるといいですね」(武用さん談)
その講座では、ロミロミの技術だけでなく、ハワイの文化や考え方についても伝えていくそうです。
とくに「物事をジャッジメントしないこと」や、「物事に対して感じた事、思い浮かんだことを観察すること」などの大切さを通じて、「ホ・オポノポノ(調和)」の精神も伝えていきたいと、武用さんは笑顔で語ってくれました。
言葉ではなかなか伝えられなくても、手からなら愛情を伝えられる。
もしかするとその方が受け取る側としても素直に受け取れるのかもしれません。
考えてみれば、それは相手に触れるアプローチをするセラピーにとって、テクニック以前の大切な要素なのでしょう。
武用さんの新たな企画は、ロミロミを通したセラピーの精神を広く伝える試みであり、これも場所や肩書きにとらわれないセラピーの在り方なのだろうと思います。
校長からのメッセージ
武用さんがサロンとスクールを始めた2000年頃は、まだまだロミロミを教えるスクールが少なかった時期です。
その頃の生徒は、セラピストとしてロミロミを身に付けたい人が多かったそうですが、最近では生徒のニーズが多様化していると言います。
たとえば、家族や友人のために習う生徒もいれば、介護の仕事に取り入れたり、純粋に人生の学びのために通う生徒もいる、というように、学ぶ目的も、生徒の背景も、多様になっていると武用さんは実感しています。
そうした変化は、もちろん時代の変化ということもありますが、武用さん自身の変化とも大いに関係しているのだろうと思います。
生徒の募集についてはHPを使っていますが、現在は積極的に情報発信をしていないそうです。
しかし、彼女のように長くセラピストとして活動を続けていれば、スクールの卒業生も、お客様として施術を受けた人も、あるいはそうした人から伝え聞いた人もすべて含めると、自ずと知らぬ間にものすごい人数になっているはずです。
また、生徒やお客様が自分のSNSやブログで話題にしていれば、当のセラピストも知らない間に、興味を持ってくれる人が増えているなんてこともあります。
武用さんのスクールへの問い合わせが後を絶たないのは、そうした背景もあるのではと思います。
さて、【個人セラピスト編】では「できることをすればいい」という武用さんの考え方を紹介しました。
それは、どんな立場や状況であってもセラピストとして生きる方法はある、という思いからでした。
「できることをすればいい」という考え方は、実は技術の身に付け方にもそのまま当てはめることができるのではないでしょうか。
たとえば、身長が低い生徒でも低いなりに「できることをすればいい」。
いくら素敵な先生の技術であっても、身長差のある先生の真似をしようとすれば本来の育成とはならないのではないか。
生徒自身の体格など持ちうる資質にあった「できること」を増やしていくことが、よい学びとなり、それらの資質を活かした施術を、お客様にどう提供できるのか?その引き出しを増やすにはどうすればいいのか?
その試行錯誤の段階が、セラピストの対応力を磨くために必要であり、それは彼女が話してくれた「自分の感覚を信じられる」ことにもつながるのだろうと感じました。
「一人前のセラピストを育てることは、先生のコピーをつくることではない」という問題意識を持ち、生徒が自ら考える力を養えるように、アイディアと時間提供を惜しまないスクールが少しずつ増えてきており、武用さんのスクールもその1つだと言えます。
「先生のコピーを続けていると、“技術は先生に習うもので、自分で考えるものではない”と思ってしまうのではないでしょうか。そうではなくて、自分で考える力を生徒が身に付けて欲しいですね。そうすると、私にもラッキーなことがあるんです。生徒が考えた技術を、私も教えてもらえるから!」(武用さん談)
私たち日本人は、「伝統的」と言われると、すぐに「形の決まったもの」を思い浮かべてしまいます。古来から伝わる様式を崩さないことに価値感を持っているからです。
ですが、武用さんのお話を聞いているうちに、ハワイの伝統療法ロミロミは「伝統的にクリエイティブであることを求めている」ように思えました。
伝統と創造は、一見して相反しているように思えますが、実はロミロミの中では共存できるもの、ということなのかもしれませんし、それはセラピー全般にも言えることなのかもしれません。
そう思うと、セラピストは、クリエイターやアーティストとしての側面も兼ね備えている不思議な生き方とも言えるのかもしれない。そんなことを思い浮かべたインタビューでした。
ハワイアンロミロミスクール ぷめはな
https://school.pume-salon.com/