北海道札幌市を中心に、デザインによってセラピストを支援する活動(シェルパ)をしている「スタジオシンカー やまたに家」の山谷裕一さんと やまたにちえさんのシェルパライフを紹介します。
裕一さんとちえさんは、30年以上のキャリアを持つデザイナーです。
セラピストとの親交を深く持ったことをきっかけに、8年ほど前からセラピストの活動に必要なツールのデザインを手掛けています。
たとえば、名刺やパンフレット、ホームページなど。ときにはイベント用の幟(のぼり)や、看板などの制作も受けているそうです。
セラピストからの案件だけ言えば、すでに100件を超えているとのこと。
彼らの特徴は、依頼者に寄り添うヒアリング力と、依頼者だけでは気づけなかった可能性や表現方法を引き出すプロデュース力にあります。
一般的なデザイン業務では、依頼者から提供された素材(テキストや画像)を整理整頓することがメインになり、提供された素材に対して疑問を呈したり、改善案を提示したりすることはほとんどありません。
しかし、スタジオシンカーの2人は時に、「本当にそれでいいですか?」「これでお客様に伝わりますか?」という問いかけをします。
そのように依頼者とのコミュニケーションを繰り返しながら制作物を作り上げていくそうです。
「ネットなどで名刺を安く作るサイトなどをイメージしてもらえば分かりやすいのですが、入力する情報として屋号と名前と連絡先はありますが、たとえばそこに“ターゲットは誰ですか”という項目はありません。僕たちは、それらをすべて含めてサービスとして提供しています。」(裕一さん談)
事業内容を相談するとなれば、それはコンサルティングであり、また広告戦略などを相談するなら、それはプロデュースと言えます。
そうした仕事は一般的にデザインの範疇に入りません。
しかし、スタジオシンカーの2人は、そこにこそセラピストを含めた個人事業へのサポートが必要であると感じ、ヒアリングを通じて掘り起こした依頼者の魅力を制作物に落とし込むというスタイルをとっているのです。
「最初、名刺やチラシを手作りする人は多いです。でも、その出来映えが恥ずかしくて積極的に出せなくて悩んでいる方もいます。それがデザインによって、“すごく自分らしさが出ていて、名刺を出すのが嬉しくなりました!”って喜んでもらえる。それが一番かな」(ちえさん談)
なぜ2人がそのような思いを強くしたのか、セラピストへのサポートを始めたきっかけとともに聞くことができました。
人を癒したいという熱量に触れて
もともと2人は長くデザイン関連の会社に勤めていました。
セラピストとの出会いは、デザイン会社に勤めている頃に、ちえさんがカラーセラピーを学んだことから始まります。
デザイナーとして用いてきた色彩の力が、セラピーとしても活用できることに面白味を感じたからなのだそうです。
長く勤めたデザイン会社を離れ、裕一さんが立ち上げたスタジオシンカーに参加するようになった後、ちえさんは身につけたカラーセラピーで、いくつかのイベントに出店したこともあるそうです。
そうしたイベントの中で、そこで裕一さんとちえさんは、セラピストたちが持つ「人を癒やしたい」という熱量に触れることになります。
セラピストは、お客様に向き合い、悩みに耳を傾け、進むべく道をともに探し、ときには心の深部にまで触れることになります。
こうした働き方は、大きなエネルギーが必要であり、同時にセラピストの心身には大きな負担になることもあります。ですが、セラピストは「人を癒やしたい」という使命感を持って、お客様に寄り添うことができます。
そうした姿と比べたときに、ちえさんはセラピストとしての自分の限界を感じるようになったそうです。
自分が熱量を発揮できる領域は、セラピストとは違うことに気づいたのです。
「人に喜んでもらったりとか、やる気が出たって言ってもらうのは、私にとってすごく嬉しいことでした。でも、私はセラピーじゃなくて、デザインによってそれができるんだと気がつきました」(ちえさん談)
セラピストたちと交流し、ともに活動をしたことは、2人に別の道を示すことになります。
イベントに参加して、主催者や周りの出店者と仲が良くなっていくうちに、名刺などのデザインについて相談を受けるようになったのです。
やがてセラピストから仕事の依頼を受けるようになります。
しかしはじめから今のような、セラピストに寄り添ったスタイルができたわけではなかったそうです。
セラピストに喜んで使ってもらえる制作物とはどういうものなのか?それに気づくきっかけとなった失敗談を教えてくれました。
本当に相手に寄り添った形とするには
セラピストから依頼を受けるようになった2人は、当初は「デザイナーとしてクオリティの高いものを」と意気込んで臨んだそうです。
ですが、せっかく生み出した名刺を積極的に使ってもらえていないことを人づてに聞くことになります。
「ヒアリングをして、その人の最上級を表現してデザインを作り上げたという自負はあるんです。でも、等身大ではない姿をデザインに投影してしまったことが、却って持つ人にとって重荷になってしまったのかもしれません。僕らがもっとその方のことを知っておけばよかったんです」(裕一さん談)
商品やサービスを出来るだけ見栄えするようにデザインするのは、デザイナーの本能のようなものです。
宝石はより煌びやかに、食べ物はいかにも美味しそうに見せる。
普通のデザインであれば、それが正解です。
しかし、ことセラピストに関しては、それが過ぎれば、遠慮気味に人に見せなければいけないような気分にさせてしまう。
本当にセラピストに喜んでもらえる制作物の在り方、作り方について、考えさせられる経験となります。
「セラピストたちに対しては、僕らは普通のデザイナーではいけないんだと思いました。ただ、かっこよさやファンシーさを際立たせるデザインではなく、本当に相手に寄り添った形にするためには、”便利屋さん”みたいなデザイナーであればいいんだなと」(裕一さん談)
「気をつけるようになったのは、背伸びしすぎないこと。名刺などの制作物に、“今現在の本人と1歩先の本人”がこもっていること。それが、今の私たちが目指しているところです」(ちえさん談)
セラピストをサポートする「シェルパ」としての活動において大切なことを聞きました。
「外面だけではなく、その人の内面を見る観察眼ですかね」(裕一さん談)
「聞く耳を持って根気よく聞くこと。それにセラピーに興味があること」(ちえさん談)と2人は笑顔で答えてくれました。
時にはイベントなどに顔を出して、セラピストと交流し、セラピストたちをよく観察すること。
できるかぎりセッションを受けてみることも大切なのだそうです。
そうやって懐に入ることで、いざセラピストに必要とされる場面で声を掛けられる関係性にいることが、サポート役として重要なポジションとなる。
「ガツガツと仕事を取りにいくスタイルだと、かえって敬遠されますから」と笑いながら話してくれました。
友達や仲間のようにセラピストの輪に入っていくことで、セラピストの魅力や人となりが分かってデザインに取り込めるし、セラピストとしても気を張らずに相談できるということなのでしょう。
笑い話の中で新しい仕事が生まれ、セラピストとデザイナーが互いに活かし合うことでデザインが生み出されていく。
その制作物が、新しい人との出会いを運んでくる。そんな楽しげな循環が、「スタジオシンカー やまたに家」にはあるのかもしれません。
校長からのメッセージ
「スタジオシンカー やまたに家」での名刺の制作費は15,000円〜、リーフレットは35,000円〜です。
ここにはセッションも含まれていて、ときに制作過程で新しいアイディアも生まれる可能性があることを思えば、とても価値のあるものといえます。
名刺やパンフレットを始めとする制作物は、セラピストの活動に不可欠なツールです。
自分が何者で、どんな価値を提供していて、どうあろうとしているのか?
それを知ってもらうことは、お客様への営業行為ですが、言い換えれば自己紹介でもあります。
制作物の内容を見て、セラピストの提供する価値に共感して、サービスを欲しがる人がお客様になるわけです。
そういう意味では、制作物はセラピストと社会をつなぐ架け橋になりうる存在ともいえるのですが、その架け橋のかけ方に悩むセラピストは少なくありません。
セラピストの働きは目に見えず、その価値を表現しづらいもの。
また、セラピストの表現や考え方、感じ方は一般的でないことがあるので、一般の人に誤った印象を与えてしまう可能性は常にあります。
それが名刺や広告などを制作する際に、大きな悩みとして現れるのです。
自分の活動をどう表現すれば、伝えたい人に伝わるのか?
単純化しすぎるとセラピストの個性が失われますし、複雑にしすぎると伝わりません。
その葛藤ゆえに、何を書いていいかわからなくなってしまうのです。
お客様へのセラピーやセッションでなら素敵な言葉を紡ぎ出せるのに、「チラシやホームページに書くキャッチコピーは何ですか?」と聞かれると、つい黙ってしまう。
そんなセラピストも少なからずいることでしょう。
スタジオシンカーの2人の話を聞いていますと、セラピストが名刺などのツールを作る機会は、実は自身の事業を見つめ直すための絶好の機会にもなり得ることが分かります。
彼らのようなスタイルのデザイナーとともにツールを作り上げることは、カウンセリングを受けるようなものともいえます。
これからセラピストを始める人だけでなく、新しいステージに向かおうとするタイミングなどに、頼れるシェルパとともに自分だけのツール作りに挑む。
それはきっと、セラピストライフを歩む上で、1つのツールを得ること以上に価値ある経験になるはず。
1人でも多くのセラピストが理解のあるシェルパとつながることは、セラピストと社会をより強く結びつけ、ひいては健全な社会を生み出すことにもつながるはずだと私は信じています。
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