大阪北堀江にて、女性起業家を支援するためのコミュニティとコワーキングスペースを17年にわたって運営する、「わくらく」の三根早苗さんを紹介します。
彼女はいわば「シェルパ(セラピストの支援事業者)」として活動をしています。
三根さんはコミュニティの会員に対して、個別の経営指南や情報提供をする他、グループコンサルや勉強会を開いています。
提供する情報としては、たとえば仕事や商材の紹介、補助金や支援金などの案内、行政からの事業募集のお知らせなど。事業主にとって情報収集は大切ですが、それが苦手な方もいるので大変喜ばれているのだそうです。
また、「何でも相談」として様々な要望に応じるなど、会員の活動をきめ細やかに支えています。
ブログの立ち上げの相談に乗ったり、サロンのイメージ写真のモデルになったり、ときにはグチの聞き役(三根さん)になることもあるとのこと。
現在の会員数は約200名で、そのうちセラピストは100名ほど。会員は関西を中心に全国に広がっています。
長くは続かなかったサロン運営
もともと、三根さんは科学畑にいた、いわば「リケジョ」。大学で化学の研究に没頭し、大手化学メーカーの研究者としても働いていました。
しかし、ストレスで体調を崩すようになり、会社勤めをしながらアロマセラピーとネイルの勉強をしたそうです。
そして、2002年の秋にアロマとネイルを提供する自宅サロンを開業します。
ですが、そのサロンは長くは続きませんでした。
「経営や営業を勉強しないまま、独立開業してしまったんです。それに、適性というのでしょうか、私はアロマセラピーもネイルも本当に好きでしたがセラピスト向きではないなって、サロンを始めてから気づいた。自分のセラピストとしての限界を感じてしまったんですね」(三根さん談)
しかし、このときの経験が、彼女のその後の道を拓くこととなります。
当時三根さんは起業家サークルに参加していて、そこで事業者同士の横のつながりの大切さと、おもしろさに気づいたのです。
そして、セラピストを含めて女性が安心して所属できる場を作る事を決意し、「わくらく」を設立するに至ります。
というのも、三根さんが見てきた起業家サークルは、男性の経営者がほとんどで、従業員がいるような事業規模を対象にした情報が多かったそうです。そこで、小規模事業、とくに女性経営者専用のサービスを作りたいと考えたのです。
さらに、信頼する人物から「あなたは人と人を繋ぐ才能があるよ」とアドバイスをもらったことが、彼女の背中を押したそうです。
「自分自身、サロン運営で苦しんだ経験があるから、もがいている人の気持ちがよく分かる。がんばっているのに結果が出ない、何をすればいいか分からない、自分が社会で必要とされていないのかもしれない、という不安やせつなさもよく分かるんです」(三根さん談)
1人ひとりに徹底的に向き合うことで”このコミュニティに来て良かった”と
三根さんが「わくらく」をスタートしたのが、2004年5月のこと。これまで17年以上も続けることができた要因について聞くと、
「私自身、早々にアロマセラピストやネイリストを辞める覚悟ができていたこと。それでもなお、セラピストを含めた女性たちが活動を続けていけるために自分のできることはないか?と考えていたからでしょうか」と三根さんは笑顔で答えてくれました。
もし、セラピストを中途半端に続けていたなら、それに関する依頼があったときに会員を差し置いて自分が仕事をもらいにいっていたかもしれない。
しかし、コミュニティ運営を専業にすると決めたのだから、躊躇せずにコミュニティのメンバーに仕事を紹介できるというのです。
また、複業を持たず、コミュニティ運営に専念したことで、すべての時間を会員のサポートに向けることもでき、サービスの幅も質も向上させていくことができます。
「目の前の1人ひとりに徹底的に向き合って、“このコミュニティに来て良かった”って思ってもらいたい。そのために、相談者にとっての幸せを大切にしていくことを考え、取り組み続けてきました」(三根さん談)
今後の方向性について聞くと、
「コミュニティリーダーを育てて、暖簾分けみたいに各地でコミュニティができるといいですね。そうなれば、私は生まれ故郷の佐賀に戻りますよ。オンラインで情報発信をしながら、各地のコミュニティに時々顔を出すんです」と、楽しそうに話をしてくれました。
また、現在の日本ではオンラインサロンのような、ITを使ったコミュニティ作りが盛んになっていますが、そうした方法も利用しつつも、三根さんはリアルで集まるからこそ生まれるアイディアや熱量を大切にしたいそうです。
だからこそ、コミュニティの維持と、リアルの出会い場の創出ができるコミュニティリーダーを育てたいと考え、その方法を模索中ということです。
「時々、“わくらくみたいなコミュニティが他の地域にもないですか?”と聞かれるんですね。それで、私の17年のノウハウが役立ててくれる人がいるなら、暖簾分けみたいに各地にコミュニティが増えればいいなって考えています」(三根さん談)
今後のビジョンについて笑顔いっぱいに話す三根さんを見て、彼女の思い描く未来はそう遠くないのかもしれないと思わされるインタビューでした。
校長からのメッセージ
「わくらく」の会費は月5,500円。平日は基本的に活動していて、勉強会は月に10回ほど開催し、ランチ会や懇親会なども開いています。
さらに、個別のコンサルで事業者に伴走しながら、仕事や人材の情報をつなげ、さらによろず相談のように女性事業者の悩みに応えていく。
それを200名の会員の中心に立って差配するのですから、簡単なことではありません。「あなたは人と人を繋ぐ才能があるよ」と三根さんにアドバイスした人物の目は確かだったように思えます。
さて、三根さんはグループコンサルのように、複数の人が集まって、相談事を話したり、アイディアを出し合う場にこそ、手応えを感じているようです。
ある人の疑問や悩みが、別の人にも共感できるものであることも多く、そんな時こそコンサルでの提案が素直に受け入れられることを実感していると、三根さん言います。
また、グループコンサル参加者の1人の相談事が、他の参加者にとって事業のタネになったこともあるのだそう。そうした場を作れるのも、三根さんがコミュニティを持っているからこその強みです。
場を作り、場を主催する能力を「ファシリテーション」といい、三根さんはファシリテーターとしての役割りにやり甲斐を感じているのです。
「なんとなく人が安心して発言ができたり、人が素直に聞きやすい場を作るのが、私の得意なこと。場が生まれれば、私はあまりしゃべらなくても、参加者同士で高め合ってくれるんです」(三根さん談)
三根さんは、人のために共感性を持って動き続け、相談者1人ひとりに寄り添っています。
そう、彼女はセラピストであることを辞めても、セラピスト・マインドを持って活動しているのです。
ファシリテーターとセラピストは、心の在り方としてはよく似ているように思えます。
それはつまり、現在セラピストとして活動している方や、セラピストを目指す方の中にも、ファシリテーターの素質を持つ人がいるということでもあります。
現在のコロナ禍によって、コミュニティによるセラピスト支援の大切さと、リアルで集まることの重要性が再確認されています。
オンラインでも場を作れる人、アフターコロナに人が集まる場を主催できる人の価値は、今後ますます高くなっていくのではないでしょうか。
わくらく